線型空間について
定理1
選択公理 ⇔ 任意の線型空間に基底が存在する
証明
(⇒)Vを任意な線型空間とする.X := { A⊂V | Aは一次独立 }とする.一次独立の定義から,Xは明らかに有限性を持つ.よってTukeyの補題によりXは極大元Bを持つ.
Tukeyの補題とは「有限性を持つ集合は(⊂についての)極大元を持つ」という選択公理と同値な命題のこと.Zornの補題についてを参照.
BがVを生成しないと仮定する.するとBの元の一次結合で表せないような元v∈ Vが存在するが,この時B⊊ B∪{ v}∈ Xとなり,Bの極大性に矛盾する.よってBはVを生成する,即ちVの基底である.
(←) 選択公理と同値な the Axiom of Multiple Choice を示す.
AMC (= the Axiom of Multiple Choice)とは次の命題のこと.
空でない集合の族
に対し,空でない有限集合の族
で∀λ∈Λ,
を満たすものが存在する.
同値性の証明はthe Axiom of Multiple Choiceを参照.
を空でない集合の族とする.
(λ≠μ)としてよい.kを体とし,
を不定元の集合とみなして体 k(X) を考える.
単項式
に対し,
と置き,
をλ次数と呼ぶことにする.各項のλ次数がmの多項式をm次のλ斉次多項式と呼ぶことにし,その次数もλ-degで表すことにする.f∈k(X)が
f = g/h (g, hはλ斉次多項式,λ-deg(g) = λ-deg(h)+d )
と表せるとき,fをd次のλ斉次式と呼ぶことにする.
K := { f∈k(X)|∀λ∈Λに対しfは0次のλ斉次式} はk(X)の部分体.よってk(X)はK上の線型空間とみなせる.V := <X> をXでK上生成されるk(X)の部分空間とする.仮定よりVはK上の基底をもつ.それをBと書く.
さて,λ∈Λとする.
の任意の元xは

(B(x)⊂Bは有限集合,
)
と一意に表される.他の元
も同様に
と書くと

となる.表現の一意性から

である.即ち,B(x)と
はxによらずにλから定まる.そこで
と書く.
だから
は-1次のλ斉次式である.よって,
を既約分数で表す事にすると,分母には必ず
の元が現れる.故に
![]()
と置けば各
は空でない有限部分集合である.よって the Axiom of Multiple Choice が成立する.
体kと集合Xに対し,k^(X)でXを基底とするk-線型空間を表す.
定理2
kを体とするとき
選択公理
⇔ 任意のk-線型空間Vとその部分空間Aに対し,Aの補空間Bが存在する.
(即ち,A⊕B = V となるB.)
証明
(⇒) X := { W⊂V: 部分空間 | A∩W=0 } にZornの補題を適用すればよい.
(←)AMCを示す.
を空でない集合の族とする.各X_λは互いに交わらないとしてよい.
とする.各λ∈Λに対し
A_λ:={Σ_{x∈X_λ}a(x)x∈k^(X_λ) | Σ_{x∈X_λ}a(x)=0 }
と定義する.A:=⊕_{λ∈Λ}A_λ⊂⊕_{λ∈Λ}k^(X_λ)=k^(X)に仮定を適用するとA⊕B=k^(X)となる部分空間B⊂k^(X)が存在する.
x∈X_λをx∈k^(X)とみなして x=a(x)+b(x) (a(x)∈A, b(x)∈B) と表す.任意のx, y∈X_λをとる.x-y∈Aに注意すると
b(x)-b(y) = (x-a(x))-(y-a(y)) = (x-y)-a(x)+a(y)∈A
となるからb(x)-b(y)∈A∩B=0,即ち b(x)=b(y) である.従って,b_λ := b(x) は x∈X_λの取り方によらずλのみから定まる.b_λ∈B⊂k^(X)なので,b_λ=Σ_{y∈X}α(λ, y)yと一意に表せる.そこで F_λ := {y∈X_λ|α(λ, y)≠0} と置く.Σ_{y∈X}α(λ, y)y は実質有限和だからF_λも有限集合である.また,x∈X_λに対し
x-Σ_{y∈X}α(λ, y)y = x-b_λ = x-b(x) = a(x)∈A = ⊕_{λ∈Λ}A_λ
であるが,x-Σ_{y∈X}α(λ, y)yのA_λ成分は明らかにx-Σ_{y∈X_λ}α(λ, y)y.A_λの定義より1-Σ_{y∈X_λ}α(λ, y)=0,故にα(λ, y)≠0となるy∈X_λは存在する.即ちF_λは空でない.よってAMCが成立する.
定理3
選択公理 ⇔ Q-線型空間の生成系は基底を含む.
証明
(⇒)省略.
(←)AMCを示す.
を空でない集合の族とする.各X_λは3つ以上元を持つとしても一般性を失わない.各λ∈Λに対しQ-線型空間V_λを
V_λ := { f: X_λ→Q | ある有限集合F⊂X_λがあってfはX_λ\F上定数関数 }
と定義する.G_λ := { f∈V_λ| fは定数関数ではないが一点を除くと定数関数 }と置けばG_λはV_λを生成する.
V := ⊕_{λ∈Λ}V_λとする.自然な埋め込みi_λ: V_λ→ Vが存在する.G:=∪_{λ∈Λ}i_λ(G_λ)と置けば G は V を生成する.そこで仮定より V の基底 B⊂G が存在する.B_λ := { x∈V_λ| i_λ(x)∈G }とすれば B_λ⊂G_λがV_λの基底である.
定数関数 1∈V_λを基底 B_λの元 b_i の一次結合で表す: 1=α_1b_1+… +α_nb_n.b_i∈G_λで,X_λは3つ以上の元を持つから,b_i: X_λ→Q が X_λ\{x_i} 上定数関数になるような x_i が唯一つ存在する.そこで F_λ := {x_1, …, x_n} とすればよい.
定義
Rを環とし,MをR-加群とする.
Mが入射的(injective)
⇔ R-加群の任意の単射準同型 f: L→N と任意の準同型 g: L→M に対し
準同型 h: N→M が存在して g=hf となる.

Mが射影的(projective)
⇔ R-加群の任意の全射準同型 f: N→L と任意の準同型 g: M→L に対し
準同型 h: M→N が存在して g=fh となる.

定理4
kを体とするとき,次の命題は同値
- 選択公理
- k-線型空間は入射的
- k-線型空間は射影的
- 基底を持つk-線型空間は射影的
証明
(1 ⇒ 2) k-線型空間 V が入射的であることを示す.任意の単射線型写像 f: U→W と任意の線型写像 g: U→V を取る.

fによりU⊂Wを部分空間とみなし,定理2 を使うと W=U⊕U' と書ける.そこで h: W→V を合成 W=U⊕U'→U→Vで定めればよい.
(2 ⇒ 1)定理2 の条件(補空間の存在)を示す.V をk-線型空間とし A⊂V を部分空間とする.仮定2. よりAは単射的である.故に,次の図式を可換にする線型写像 f: V→A を得る.

B := ker fとすれば A⊕B = V.
(1 ⇒ 3)
k-線型空間 V が射影的であることを示す.任意の全射線型写像
f: U→W と任意の線型写像 g: V→W を取る.

Vの基底{e_i}を取る.(選択公理を仮定しているのでこれは可能.)fが全射であることから,各e_iに対しf^{-1}(g(e_i))≠∅である.よって選択公理によりu_i∈f^{-1}(g(e_i))を取ってくることができる.h(e_i):=u_iで線型写像 h: V→U を定義すれば,これはg=fhを満たす.
(3 ⇒ 4)は自明.
(4 ⇒ 1)AMCを示す.
を空でない集合の族とする.各X_λは互いに交わらないとしてよい.
と置く.f: X→Λを f(x) := (x∈X_λとなるλ) で定める.f から線型写像 \bar(f): k^(X)→ k^(Λ) が自然に得られる.f が全射だから,\bar(f) も全射である.仮定4. より,k^(Λ)は射影的,よって次の図式を可換にする線型写像 g: k^(Λ)→k^(X) が存在する.

λ∈Λに対し g(λ)=Σ_{x∈X}a(x, λ)x と一意に表す.この表示を使って
F_λ := { x∈X_λ| a(x, λ)≠0 }
と置く.Σ_{x∈X}a(x, λ)x は有限和だから F_λも有限集合である.また

となるから,表現の一意性より a(x, λ)≠0 となる x∈X_λは存在する.即ちF_λ≠∅.故にAMCが成り立つ.
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